私達夫婦への「慰労」を兼ねて、田舎の親戚がお蕎麦を食べに連れて行ってくれると言う。
何でも、亡くなった従姉弟が贔屓にしていたお蕎麦屋さんだそうな。
どちらかと言うと、「饂飩党」の私ではあったが、喜んでお相伴することにした。

当日、家についてみると、なにやら台所は凄いことになっていた。
プロが使う大鍋には湯が一杯張られ、大量の氷も用意されていた。
傍には、手打ちされたばかりの蕎麦が綺麗に並べられている。

「どうしたの〜? お蕎麦屋さんが引越ししてきたみたい・・・」

「それがよ〜。 店を畳んじまったようでの〜。 出張してくるって言うんだがよ」

「・・・・・」

「近くに出来た【イ○ン】の所為で、店、閉めたんだと・・・」

「えっ〜! それなのに、お蕎麦を打って下さるの〜?」

プロの打ったお蕎麦は、蕎麦嫌いの私でも、「美味しい!」と思うほど、香りといい、喉越しといい、味わい深いものだった。
主人など、3枚もお替りをするほどだ。

「蕎麦湯も飲むかね〜」

と、座敷まで運んでくれた蕎麦屋の主人。
いかつい顔に似合わず、優しげな人だった。
従姉が亡くなる二日前にも、店を訪れていて、閉店を残念がってくれたそうだ。
事件を知った時、可哀想で涙がこぼれた・・・と、目をしばたいている。

実は、このお蕎麦屋さんは、つ○つる温泉入り口の傍にあったので、イオン云々の話を、私は、水質に何か問題が生じて閉じた・・・とばかり、解釈していた。
が、段々、話を聞いているうちに、大型店舗の「イ○ン」の所為だと分かってきた。
私達は、便利に使っている大型ショッピング・モールだけれど、方々に波紋を投げかけていたことをうかつにも知らなかった。

「お得意さまの要望に応えて、何処へでも出張しますよ!」

と、年老いた店主は元気に喋っていたけれど、都会ならいざ知らず、田舎では、まだまだcatering serviceそのものの需要は、さほど無いだろうと感じた。

我が家で待っている息子夫婦にもと、お蕎麦のお土産まで頂いた。
店主の、丁寧な茹で方の解説つきで。

美味しいお蕎麦だったけれど、鼻につ〜んと感じたのは、山葵の所為ばかりでは無いような・・・。
胸が一杯になり、箸が進まなくなった私に、

「あによ〜!(従姉はナ行をア行で喋る) もっと、食べナヨ〜!」

当分、お蕎麦を見るたびに、従姉弟達のことを思い出すだろう・・・。
「美味しい!」と言って食べるのが、一番の供養となるかも・・・。                    合掌

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