その彼女が、今、家の移転のことで悩んでいる。
お定まりの【再開発】とかで、住み慣れた家を移るのだそうだ。
最近こそ、「土地神話」も崩れ、天文学的な数字にはならないだろうが、そこは、「腐っても鯛（？）」の神田だ。 生半可の金額ではないそうだ。
親からの商売を続けていく為に、19歳でお店の番頭さんを養子に迎えた彼女。
他の姉妹たちとは違った苦労もしてきたことだろう。
数年前に、一家の大黒柱であった母上を亡くし、名実共に女主人となった彼女。
住み慣れた家を離れる胸中を思うと・・・。
彼女の息子さん（写真家）は、街中の神田よりも緑豊かな郊外に移転しようと言うそうだ。
差額の資金を、自分のスタジオ建設に・・・との思惑も見え隠れする。
家業も親も、面倒なことは姉一人に押し付けていた妹達も、「あわよくば・・・」と思って居るらしい。
数年前に大病を患った彼女。 様々な思惑の渦の中、疲れきった様子だったが、今年になって、彼女なりの決断を下したようだ。
「神田は離れない！ 代替地を近くに探してもらう。」と。
「蔵前橋通りより中でないと・・・」
「中央線の外は嫌なのよ」
と、あくまでも、千代田の城内の堀の中に拘る彼女。
「悪るうござんしたね！ 私は川（隅田川）向こうではないけれど、堀の外の蔵前育ちよ！」
と、啖呵を切りたいところだけど、彼女の郷土愛を笑いながらも、どこか許してしまう自分がおかしい。
きっと、先年の【神田明神の大祭】で、裏方の「女将さん連中」の意気をまじかに見た所為かもしれない。
私の実家は、【鳥越祭】だけれど、私は母のように裏方の仕事はせず、単なる傍観者での祭りだった。
だから、彼女のように、強い郷土愛が湧かなかったのだろう。
父が亡くなって3年。 実家はもう、他人の手に渡ってしまった。
寂しいような、ホッとしたような、複雑な気持ちだ。
自分の代わり・・・ではないけれど、彼女には、【江戸っ子】の意地を守り通して欲しいものだと思っている。
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